魅力のない住宅から魅力的な庭物語のある暮らし

写真①のように、無機質な表情、東側に薄暗い入り口、薄暗い陰湿な感じ、吐き出しの入り口、道路側が丸見えのような…居心地の悪い家がある。
このような家を写真②のような無機質なものから有機的なものとして、扱っていくとどうでしょう?

緑視率(緑のパーセント、エレベーション(立面)に対する割合)を上げる。
緑視率が多いと家の表情にいろいろと効果が表れる。
最初の建物と生命を吹き込んだ建物の違い、何故、こんなものができるのだろう、と実に不思議に思うところである。
人と人とがぶつかる90センチにしていみると…
先ずは入口、普通、アプローチというのは1メーター20センチから1メートル50センチの幅でできるのですが、それを敢えて90センチにしてみる。
90センチにすることで、少ない空間にアール(角度)をつけることができる。アールをつけることで、歩いている時姿勢がぶれるため、「距離感が長く感じたり」、「庭や緑を楽しめたり」することができる。(写真③参照)

茶室の室内とよく似てる
これは、日本の昔からある茶室の室内とよく似てる。茶室の飛び石は歩きにくくなっている。歩きにくいから茶庭を見るという発想である。
90センチとは、人と人とがすれ違う時に、ぶつかるような寸法である。
ぶつかるというのは、どういうことかと言うと、例えばだが、父親と喧嘩した次の朝、入り口で、お互いにすれ違ったときに、ぶつかるので一言しょうがないから、「昨日はごめん」と言える状態を作る。父親の方も、「いやいや、俺も悪かったな」、というような会話が生まれやすい寸法である。
これが1メートル20、1メートル50ぐらいあると、素通りしてしまうけど、90センチだと、中々そうはいかない。
娘が、今度、「運動会があるから来てね!」とか、「今日お母さんの料理がとても美味しいから、お父さんも美味しいと言ってね!」とか、そういうような、会話が産まれやすい。
小径はかけがいのない空間に
家族のコミュニケーションの場として、知らず知らずに、かけがいのない場所になっていく。
しかも、底のタイルは、靴音が ”カツ”、”カツ”と、音がなるような素材を使っているため、いち早く、ペットの犬が「わん、わん」と、誰かが帰ってきたことが、わかるような仕掛けにもなっている。レンガを焼いた溶鉱炉の解体した素材を使っているのため、焼け具合が所々とついていて綺麗である。
さらに90センチのアプローチは、軽い素材を使うことで、東の入口の暗さを払拭している。
アプローチの横に生えている白い花はホタル袋で、緑色の大きな葉っぱは大葉擬宝珠(おおばきぼうし)、これらを植えることで明るい感じにしている。
アプローチの道は小径風ということで、敢えて短い部分と小径がもたらす効果、というものを工夫して作っている。

植物の影が映り、スクリーン上映のようにみえる
吐き出しの窓の前に、壁を作ることで、締めぱなしの吐き出しが開けられるような関係を作っている。しかも、壁に突起物を出しているので、光が当たったときに陰影がはっきりと映る。陰影は太陽と共に移動するため、とても情緒的であり、最後には植物の影が映り、一つのスクリーンのような何とも言えない感じになる。
また、それが風と、一緒にそよぐことで、影もまたそよぐ、この光景は面白い、壁は、その中のプライベートの空間を上手に隠しているし風通しもよい。写真④
レンガのイメージは、指で詰めてハンドメイド感を出している。壁の中の、ちょっとした空間を担っている。この場所で、お茶を飲めるかどうかはわからないが、穴を開けているので、非常に風通しがよい。風通しがよいので植物の生育にいいから園芸も長く楽しめる。
外の空間と壁(結界)が、中と外とを上手く分けているというような一つのデザインになっている。その手前に、ちょっとした目隠しの植物も生えている。
人間的と思わせるシーンのような花壇
回るい花壇、本来はレンガを真っ二つに切って全て同じサイズになるのですが、わざと、ハンマーで叩いて、大きさを変えている。稀にサイズが揃ったりすることがあったりして、これが手作り感があって味がある。敢えて不揃いの形にしたことで人間的と思わせるシーンである。そこに溢れるような緑を使っていくと、それだけで、また、人間的な感じが出て、情緒感、デザインと自然というものが、マッチしていくる。写真⑤

さらに、駐車場のコンクリートに岩塩を打ち込んで、クレーターのようにし、コンクリートぽさを無くしてみる。クレーターのような穴に、光が入ると、なんとも言えない雰囲気を醸し出してくれる。
これは駐車場としてのコンクリートとして示すのではなく、”あれ”、と思わせることで、機能性ばかりではなく、そのような情緒感というものを漂わせながら、とても面白い空間になる。写真⑥

夜は、お洒落なレストランのような雰囲気に
しかも、入口のゲートと壁の間にスリットが入っている。スリットの上に照明がついていて、スリットの光は真っ直ぐにしか進まないので、疲れて帰ってきたときに、ぐっと自分を支えてくれるような、スタイリッシュな描写ができる。また、スリットが開いて、スリットの中に光がす〜と吸い込まれていくと、ゲートの前の壁を照らすことが不可能であり、そのような表情になる。写真⑦
緑視率を入れ、なんでもなかったような建物にも、このような表情が作り、あれ、駐車場なのか、テラスなのかわからないような雰囲気をベンチを置くことで、見せることもできる。より奥行き感を出るし、華やかさ、または、品の良さをみせることができる。壁に空いた穴から漏れる光もいい感じをだしてる。こういうことが物を作っていく中で大事なストーリーになるのである。写真⑧
ただ単にデザインしていくことでは飽きがくるものづくりになってしまう。さまざまな要素が微妙に変化していくことが、そういう ”ものづくり” こそ、自分たちがやりたい仕事である。